春夏秋冬 第一話 「はじまり」
「あの・・・貴方もここの絵を描いているんですか?」


「はい、そうですけど・・・」




それはある湖のほとりでのことだった。
お互い知り合ってもいない一組の男女は、偶然にも同じ風景を描いていた。
湖のほとりには木々が立ち並び、多くの子供連れや散歩者が訪れていた。
人が多く集う広場から少し離れた木の下で、二人は絵を描いていた。








長瀬純一。23歳。昔から絵を描くことが大好きだった。
今も大工をしながら、プロの画家を目指して絵を描き続ける。


「お名前は?」
「長倉綾乃です・・・」
「僕は長瀬純一って言います。何処にお住まいですか?」
「松村一町目です。」
「え?僕松村三丁目ですよ。近いですね!」
「本当ですか?じゃああの店知ってますか?」


長倉綾乃。22歳街のケーキ屋に勤める。純一と同じく絵描きが大好き。
普段は内気だが、共通の趣味を持ち、近くに住んでいる純一とは会話がはずんだ。








二人はお互いの絵のことやお気に入りのスポットなんかについて楽しく会話し、仲良しになっていた。
互いに連絡先を交換し、それから週末になると毎日のように絵を描きに出かけた。


この前は郊外の森へ。その前は海へ。その前は遺跡へ。
いろんなところへ出かけては、二人のそれぞれのスケッチブックはだんだん一つの絵画集のようになっていった。








二人は幸せだった。
お互いに絵でこんなにも心を開けるとは・・・
彼等は、絵を描くことで互いの距離を縮めていった。


「来週はどこ行こうか?」
「井宮海岸あたりがいいんじゃない?」
「おっ いいねぇ。じゃ来週は井宮海岸へ行くか!」
「お弁当作って持ってくね!」


理想のカップル、とでも言おうか、本当に仲が良かった。




こうして、二人は結婚まで考えるようになっていた。


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