狂歌 八話
警察は慌ただしかった。
一昨昨日、一昨日、昨日、今日と連続で殺人が起こったからだ。

「・・・くそっ! またあの通り魔か・・・・」

川崎は手で髪の毛を弄りながら愚痴をこぼした。
その様子を見た男は、彼の肩に手を回して馴れ馴れしく言った。

「警視〜 あんま苛々しちゃだめですよ〜?」

「・・・笹川警部補か。 酒臭いな・・・朝っぱらからお前は酒か!」

「フヒヒ!すみません。」

川崎の怒号の後、水音が心地よくオフィスに響く。


そこには、水をぶっかけられた笹川が居た。

「・・・警視、酷いですよ・・・」

ふてくされながら、笹川は言った。

「喧しい、朝から飲んでるお前が悪い。」

「堅いこと言わないでくださいよ〜」

「・・・勤務時間中に飲酒。 いいと思っているのか?」

「・・・ごめんなさい。」

自分の非を認めたのか、笹川は丁寧に謝った。
それを見た川崎は肩をすくめ、彼にパソコンの画面を見るように促す。

「ん・・・? 警視、エロ画像でも見てるんですか?」

「軽口叩きまくってるとそのまま死ぬぞ。」

「はいはい・・・  何ですかコレ。」

「・・・あの連続通り魔が活動を再開したみたいだ。」

「マジですか?」

「ああ。」

また眠れなくなる日々が続くのか、と笹川は肩を落とした。









憎い 憎い 憎い
全部が憎たらしい。

僕は幸せなのか

それでも憎い

他人の幸せに嫉妬しかしていなかった僕が憎い


僕は幸福で、人の幸福を奪っている。

自分の幸福は奪わずに、人の幸福だけ・・・



人は自己中心的な生き物だ。



本当に醜い、自分。











薄暗い、路地。
そこに彼はいつも居る。

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

狂ったようにナイフを振るう彼。
その周りには、沢山の骸が横たわっている。

「くそっ!  狂人め!」

まだ残っていた者の一人が、彼へ向かって発砲する。
しかし、彼は瞬時に移動し、その弾丸をかわした。

「死ねぇ!」

あっという間にナイフの間合いに踏み込み、彼はナイフを切り上げた。
腹部から切り上げられた斬撃は男の内臓を噴出させ、血を撒き散らす。
男は、言葉にならない言葉を発し倒れた。

「た・・・助けてっ!」

最後の一人が悲壮な声を出し、助けを求める。
だが、彼はすぐに踏み込み、ナイフを振り下ろした。


次の瞬間、脳漿が華麗に飛び散った。














「・・・この一連の事件の中で、一番酷いな・・・」

川崎が眉間に皺を寄せ、薄暗い路地を見る。
脳漿、血、内臓 人の体が全て解体されてそこにあった。

「ぉぅぇ・・・」

笹川は気分が悪くなり、そのまま嘔吐した。

「相当、凶悪だな・・・  やはり、あの通り魔か。」

「警視・・・ ちょっと、グロすぎやしませんかね・・・」

「ああ、確かに酷い。   だけど、犠牲者見て吐くな。  彼らだって見て吐かれたら可哀相だろ。」

「了解・・・  しかし、随分と荒れてますね・・・」

「何か、乱心でもあったのかもしれないな。」

まだ眉間に皺を寄せながら、川崎は呟いた。

「まぁ、後は鑑識の仕事だ。 行くぞ。」

「・・・了解。」

二人はコートを翻し、その現場を後にした。












憎い 憎いんだよ
殺しても 殺しても
いつまでもこの気持ちは湧き上がる。

僕は彼女が好きだ。
彼女の傍に居ることは楽しい。

僕は幸せで 他人の幸せを奪うだけの人間。

僕は自分になかったからやっていたんじゃなかったのか?
僕は幸せに嫉妬していた でも今は嫉妬する意味もない。

でも殺したくなる。
どうして。 僕は人の幸せを見るたびに虫唾が走る。


僕は・・・ 



僕は何のためにやっていたんだ?


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