狂歌 七話
最後の事件から一ヶ月。
町は桜で溢れていた。
幸せそうに笑う人達。
年甲斐も無く、楽しそうに遊ぶ学生達。

彼は春が嫌いだった。


幸せの季節だから


自分では奪いきれない気がしたから


その度に鬱になる。







だけど彼は 今は幸せだった。
自分の中で自分は幸せではないと否定するが
でも、傍目で見て十分に幸せだった。


彼には恋人が居た。

その恋人は彼に似ていた。


不幸な家庭に生まれて


同じように独り。




彼らはベンチに座って話していた。
とても、幸せそうに。

「・・・4月も終わりなのに、桜が綺麗だな。」

呟くように彼は言う。
それを聞いた彼女は、少し笑った。
彼女の仕草を見て微笑んだ彼は、言葉を続ける。

「だけど、もっといいところがある。」

ベンチから彼は立ち上がる。
続けて彼女も立ち上がり、彼についていった。









そこは小さな丘の上だった。
小さい場所だが、高いところにあった。
だから、町を一望できた。


そして、丘には勿忘草が沢山咲き乱れていた。


「・・・少し早いけど、勿忘草の丘だ。  
 僕の好きな場所。」

そう彼女に言う。

しかし、彼女は言葉を聞くのを忘れて立ち尽くしていた。

「綺麗・・・」

心の底から感動したように、小さな声で彼女は呟いた。

「まだ、咲いていないところも結構あるけどね。
 5月とか、6月に来るともっと綺麗だよ。」

それを聞いた彼女は、笑顔でにっこり笑って言った。

「それじゃあ、五月の終わりごろにまた来ようね。」

「そうだな。」

「約束だよ!」

満面の笑みで言う彼女。
余程楽しみなのだろうか。

「それじゃあ、今日はここら辺で。」

彼は微笑んで、彼女と別れた。

そして帰路へと就く。


勿忘草が、微笑んでいる気がした。












最初は幸せを奪おうとして彼女に近づいた。
けれど彼女は幸せなんか持っちゃいなかった。

殺せなかった。

不遇な彼女は僕に話しかけた。

何で そんな悲しそうなの? と。

僕は常に後ろを向いていたから。


僕は幸せなんだろうか。


それは僕もわからない。











二人の男がオフィスの椅子に座っている。
そして、何事か話しているようだ。


「警視。 最近平和ですね。」

「そうだな。」

「どうしたんでしょうか。  通り魔もめっきり活動してませんね・・・」

「その代わり銃殺の後に焼殺とか趣味の悪い殺人が増えたな・・・  これも通り魔か?」

「でも手口が全然違うでしょう。 今までの被害者は皆殆どナイフで殺されてましたよ。」

それを聞いた川崎は少し考えて言った。

「別な通り魔でも現れたんじゃないか。」

「・・・めんどくさいですねぇ。 そうなったら。」

「暫く寝れなくなるだろうな。」

椅子にもたれながら川崎は自分の言ったことに苦笑する。
それを聞いた笹川はうんざりした表情をした


川崎は二人分コーヒーを淹れ、乾杯を促す。

「警察なんてそんなもんだ。」


軽い音がオフィスに響いた。














泣いている

子供が 泣いている。



僕が殺した父親。



まだ 僕は幸せが憎い。


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