狂歌 二話
「今月に入ってもう10人目か・・・」

机によりかかりながら、男は独り言を言っていた。
彼が着ているコートはよれよれで、まだ若い風貌を老けさせていた。

「こんにちは、川崎警視殿。」

若い刑事らしい男が川崎と呼ばれた男に挨拶をする。
それを聞いた男は若い刑事の方向へ体を向けた。

「やあ・・・笹川警部補・・・」

大分元気の無い声で、川崎はそう言った。

「随分お疲れですねえ〜  まだ若いのに老けて見えますよ?」

「ここのところ三日徹夜だ。 疲れが見えるのは当然だろう。」

「んなことやってると過労で死にますよ?」

「だが、そんなことも言ってられん。 警察の信用が・・・」

「別に部下に任せて寝ればいいのに。」

「そうか? んじゃ笹川頼んだ。」

素っ気無く川崎は言い、その場に突っ伏した。
数秒後、川崎は穏やかに寝息を立て始める。

「あ〜!  そーやって人任せにするから・・・」

自分で言ったことに責任は持たず、笹川は愚痴をこぼし始めた。










彼は薄暗い部屋の中で考えた。
だがすぐに思考を止めた。
そして彼はいつものものを持ってコートを羽織り、歩き出した。





薄暗い路地
この町で最も治安の悪い場所だ。
彼はそこに居た。


「助けて・・・助けて・・・」

華奢な体をした女性がナイフを突きつけられて脅されている。
何をするのだろうか それはわからない。
しかし彼はそれを見て無性に苛ついた。
そしてそこへ向かって歩き出した。

「へへへ・・・いいじゃねえか・・・」

くだらない奴がそんなことを彼女に言う。
その直後、彼はそいつの目の前に現れた。

「なんだ? 俺のお楽しみ時間を邪魔するつもりか?」

くだらない奴はナイフを彼に突きつけた。
女性は脅しから解放され、その隙に女性は逃げ出した。

「そのことが幸福と感じるなら、貴様に生きる価値は無い。」

「何を言ってやがる!」

血気盛んな若者は彼に飛び掛った。
だが彼は冷静に、消音機付の銃を放ち、足を沈黙させた。

「くそ・・・てめぇ・・・!」

若者を見下し、彼は言った。

「僕は幸福を奪う者。 君は生きれば幸福。
 だけど僕は幸せを止めるもの 奪うもの。」

その言葉の後に、彼はナイフで若者の首をかき切った。










最近過去の夢をよく見る。
過去の夢を見ても僕が幸せを憎むようになった理由はわからない。
ただ苛ついただけ。 ただ憎いだけ。

父さんは借金を苦にして自殺した。
母さんは借金のカタに内臓取られて殺された。
そして家も取られた。


僕はどこにも行けなかった。
僕は孤独だった。


その時から既に狂っていたのかもしれない。
今ではもう完全に狂ってるけどね。



僕は幸せを憎む。


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