狂歌 一話
いつから幸せが憎くなったかなんて覚えてない。
兎に角僕は幸せを見るのが嫌い。 それだけ。

だから壊してやる 何もかも

幸せな親子がいたら親父だけ殺してやる
家庭も全部ぶち壊し 素晴しい発想だよ 我ながら。








薄暗い部屋の中
一人の男がベッドに腰掛けて煙草をふかしている。

「・・・もう何人だろうか。」

彼は一つ呟いた。
そして煙草を灰皿に置き、大振りのナイフを取り出してそれに付いた血を拭き始めた。
作業はすぐに終わる。

「行くか・・・」

一言だけ言うと、ナイフを何処かへと仕舞ってコートを羽織り、歩き出した。







人々が騒がしい、ここは駅だ。
そこに、彼は居た。


幸せそうに歩く人
幸せそうに笑う人


彼はそれを見るたびに、拳を握った。
そして、"始めた"



腰からナイフを抜く。 コートに隠れて誰もそれは見えない。
すれ違いざま、誰にも見られないようにナイフを素早く振る。
それはすぐにソイツの足の腱を切り裂いた。 筋肉の切れる質感が手に伝わる。
血を出し悲鳴を上げる頃にはナイフはもうコートの中。

「・・・これで、もう一生動けないね。」

彼はそう呟き、足早に現場を去った。






薄暗い路地がある。
そこに彼は現れた。

「・・・何してんだ、テメェ。」

不良らしき奴らが彼に絡んだ。
しかし、彼は無言でナイフを腰から抜いた。

「なっ・・・」

次の言葉を発する前に、彼はもう心臓を切り裂かれて絶命していた。
仲間がそれを見るなり彼に飛び掛る。
しかし彼は冷ややかにそれを見つめ、ナイフを振る。

腱を切り裂き、動脈を切る
筋肉と血管の、紐を切るような感じが手に響く。
さらに首にナイフを刺して引き抜いて、血管を露出させる。
冷ややかに笑い、彼は不良の頭に小型のナイフを差し込んでその場を離れようとする。

「て・・・てめぇっ!」

最後に残った者が声を上げる。
そして涙を溜めて彼を襲い掛かった

「なんだ、見逃そうと思ったのに。」

蔑む様に笑うと、彼は銃を取り出してトリガーを引いた。
軽い音が一発、最後の一人は眉間に穴を開けてその場に伏した。


「群れる者は要らない。
 僕は幸せを壊す殺人鬼。」


また呟きを残し、彼は帰路に着いた。








暗い家に電気を点け、椅子に座ってテレビを見る。
ニュースの見出しはどこも "凶悪連続通り魔" 関係の話だ。
それを見て彼は少し笑い、呟いた。

「通り魔・・・か。  それは違うな・・・」

クスクスと笑い、彼はそのままベッドに転がり込んで寝た。














僕はただ他人より不幸なだけだった。
親が死んで、家を追い出されて、いろいろなところを流浪した。
そのうちに大人になっていた。


幸せなものを見ると、無性に壊したくなってくることってないかい?
僕はその気持ちが強かった。
最初は気持ちだけだった
でも気持ちが抑えられず、猫を殺した。

そこから僕は殺すことに魅力を感じた。


トリガー一回、ナイフ一振り
これだけ、どちらかひとつやればそいつの時間は止まる。
幸せである時間を奪ってやれる。


僕は幸せを奪う殺人鬼
僕は幸せを憎む殺人鬼



僕は全てを憎んで 壊してやる



僕は幸せを壊す者


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